経済的利益の実績値にもとづく機械的な運用にもかかわらず、これだけのパフォーマンスの差が生まれていることは、わが国の株価形成が基本的には企業のファンダメンタルな収益力を強く反映したものになっていることの1つの証左と考えてよいだろう。
この章では、第23章で取り上げた新しい時代の要請に応えるための課題を要約している。
最初に、わが国企業を取り巻く経営環境の変化を4つの観点、からとらえ、企業経営に対する意味合いを要約している。
続いて、本書で紹介してきた財務政策の考え方を実践していく上で、前提条件になる10カ条の経営課題をあげている。
国日本企業を取り巻く環境変化わが国の企業を取り巻く経営環境は、内外ともに大きく変化している。
それは単に経営環境の変化というにとどまらず、企業の役割そのものに対するパラダイムの転換をともなっているといっても過言ではない。
日本企業の財務政策の課題を考える際に、このように大きな変化が何に起因しているのか、そして今後わが国の企業は世界ならびに日本の国家や市民から何を期待されているのかを、正しく認識することが大切である。
そこで、この節では、(1旧本経済、(2)日本国民のニーズ、(3)資本市場、(4)企業の役割に関して、伝統的なパラダイムとの対比で、これから21世紀において支配的になると思われる新しいパラダイムをまとめてみよう(表251)。
1、1Nの再構築第2次大戦後、天然資源も基礎技術も資本蓄積もないなかで、膨大な潜在失業人口をかかえて再出発したNにとって、輸出拡大を原動力として経済成長を図り、雇用機会の増大と雇用の安定を図ることは、長い間、最優先課題であった。
官民協調による資源の政策的優先配分のもとで「よいものを安く」供給できるシステムを構築し、日本は製造業を中心とした輸出大国となり、経済大国となった。
その結果、1980年代半ばにわが国は世界最大の債権固となり、金融大国となった。
同時に、潜在的な慢性失業状態も急速に解消し、今では先進国中、最も労働供給の伸びの低い国の1つとなった。
このように、資本不足、労働余剰という制約のもとに置かれた戦後の経済・産業政策は大成功をとげたわけであるが、成功したことによって経済の全面的な再構築を迫られているのである。
つまり、金融大国になった結果、もはや国としては資本の政策的優先配分の必要はなくなるとともに、一方で労働供給不足が深刻になり、経済の量的拡大は最優先課題ではなくなりつつあるのである。
経済大国になった今、わが国に対して内外から要請されているのは、これ以上の輸出拡大や外貨準備の増大、雇用機会の量的拡大ではない。
自由市場メカニズムにもとづいて国際的な調和を保ちつつ、生活の質の向上と貴重な人的資源の有効活用、そして資本の効率的な増殖をともなう経済成長にあるといえよう。
1、2国民の意識の変化潜在的な労働力余剰のもとでは、国民の主たる関心は雇用の安定、雇用機会の増大にあった。
いいかえれば、大部分の国民の経済主体としての意識は、被雇用者の側面が中心であった。
また、所得水準の向上にともない、消費者としての意識も強まってきた。
いずれにしても、これら2つの側面はNのパイの規模拡大と密接に関連したものであり、国民に量的拡大が支持された基本的な条件であったといえよう。
しかし、わが国が経済大国となり金融大国となったために、国民のニーズはより高度化し、多様化している。
とりわけ労働時間の短縮、余暇の充実、環境問題、安全性など、生活の質の向上に対する要求が強まってきた。
国民の生活者としての意識が高まってきたのである。
また、人口構成の高齢化、平均寿命のいっそうの延長にともなって年金社会の側面も重要になってきた。
金融大国化を背景に国民の金融資産が増大し続けたことから、金融資産保有者としての意識も急速に芽生えてきた。
かつての「被雇用者」、I消費者」に加えてI生活者」、I金融資産保有者」としての国民の意識が非常に強まってきたのである。
このように高度化し多様化した国民のニーズを、どのようにバランスをとって満たしていくかが、今後の経済政策および企業経営の課題といえよう。
1、3企業に期待される役割の変化企業に期待される役割も大きく変わりつつある。
これまでは生産規模の拡大、より具体的にいえば、雇用の創出、安定雇用と輸出伸張、外貨獲得こそが、企業に期待される主な役割であった。
そのためにとってきたのが「よいものを安く」戦略であり、そういう意味では良くも悪くも横並び、の経営でやってこられた。
今後は、ますます深刻になってくる資源制約のもとで、これまたいっそう多様化する国民のニーズをいかに有効に満たしていくかが、企業に問われることになる。
そのためには、一方では貴重な原材料や自然環境、さらには、人的資源および資本を有効に活用して高付加価値、高生産性をあげつつ、他方では質の高い財やサービスを提供していかなければならない。
かつてのような「よいものを安く」提供するための横並び競争ではなく、ユニークさ、他との差別化、個性に根ざした経営戦略が求められているといえよう。
そして、これまで以上に企業の社会的責任が問われるなかで、株式公開会社の第一義的な評価基準として、市民から委託されたかけがえのないリスク資本を、効率的かつ持続的に増殖させる能力が、一段と重視されることになろう。
1、4資本市場に期待される役割の変化経済のサブ・システムとしての資本市場の役割も大きく変わってくる。
これまでは輸出伸長を通じた経済規模の持続的拡大が最重要課題であったため、資本市場の第一義的な役割は重要性の高い産業、企業に対して低コストの資本を安定的に供給することにあった。
それを実現する手段として、わが国は企業と金融機関の聞に長期的・総合的なリレーションを構築することによってリスクを有効にコントロールし、資本の優先的配分を効果的におこなってきた。
いわゆる間接金融体制のもとでの相対取引中心の資本供給方式によって、収益性やリターンが低くても、量的拡大が可能になる金融システムをつくりあげた。
この方式がある意味では成功しすぎた結果、わが国は金融大国となり、固としてはもはや資本の政策的優先配分の必要性がなくなったのである。
このことは逆にいうと、国に代わって企業、金融機関、家計がそれぞれ自分の責任と自分のリスクで、自己完結的に金融資産の効率的な運用、増殖を図らなければならない時代が到来したことを意味する。
これまでの「資本の政策的優先配分の場」との対比で、これからの資本市場を特色づければ「純投資にもとづく国民の健全な資産形成の場」を提供することにあるといえようoそのために資本市場に求められる新しい条件としては、次のようなものが考えられる。
@グローパルな市場と調和のとれたオープン・システムの構築A市場参加者が純投資のリターンを追求しつつ、全体としては望ましい企業にふさわしい条件で資本が行きわたるシステムの構築B多様な調達・運用ニーズが妥当な条件で見合う市場の構築C効率的価格形成のおこなわれる条件の整備これに呼応して、金融機関の役割も大きく変わってくる。
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